マーケッターにとって顧客がどのように購買に至るのか、そのプロセスを知ることは大切なことです。
全ての顧客が同じ購買プロセスを踏むわけではありませんが、購買行動を一般化した考え方(モデル)が世の中にはたくさんありますので、それらを理解することで自社のマーケティング活動をより良くしていくことができると思います。
この記事では、数ある購買行動モデルの中から押さえておきたいものを紹介します。
さて、あなたはいくつ知っていますか?
■AIDMA(アイドマ):マスマーケティング時代の購買行動モデル
まずは、すでに使い古されたような感もありますが「AIDMA(アイドマ)」です。
AIDMAとは、「Attention(注意)」、「Interest(関心)」、「Desire(欲求)」、「Memory(記憶)」、「Action(行動)」の頭文字を取ったもので、 1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱した消費者の購買に至るまでの心理的プロセスのモデルです。
AIDMAでは、企業からの情報発信を繰り返すことで顧客のAttention(注意)とInterest(関心)をひき、その商品を欲しいというDesire(欲求)をひきだして、Memory(記憶)に焼付け、店頭でのAction(購買)に結びつけるという流れでマーケティング戦略を考えることが一般的です。
5つのプロセスは、マーケティング戦略を考える上で「認知段階」、「感情段階」、「行動段階」と3つの段階に分けられ、それぞれの段階に応じて 適切なマーケティングコミュニケーション活動していくべきとしています。
■AISAS(アイサス):インターネット時代の購買行動モデル
AISASとは、「Attention(注意)」、「Interest(関心)」、「 Search(検索)」、「Action(購買)」、「Share(情報共有)」 の頭文字を取ったものです。
インターネットが普及した時代の購買行動を説明するモデルで、2004年に広告代理店の電通が提唱したものです。
AIDMAとの大きな違いは「Search(検索)」と「Share(情報共有)」が入っていることです。
それまでは情報の受け取るのみであった 顧客が、Googleなどの検索サービスで自ら情報を探し、そして購入後に口コミとして情報発信(Share)するのという考え方を取り入れたことが特徴でしょう。
■SIPS(シップス) :ソーシャルメディア時代の購買行動モデル
SIPSとは、「Sympathize(共感する)」、「Identify(確認する)」、「Participate(参加する)」、「Share & Spread(共有・拡散する)」の頭文字を取ったものです。
※出典:株式会社電通ホームページより引用
FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアが主流となる時代の購買行動を説明するモデルで、2011年にAISASと同じく電通が提唱したものです。
AIDMAやAISASとの大きな違いは、プロセスの最初が「「Attention(注意)」ではなく「Sympathize(共感する)」に変わったことです。
これは過去のエントリーでも触れたように「情報爆発の時代」となった昨今では、自分にとって有益な情報だけに辿り着きたいというニーズが増加しているという背景があるのでしょう。
そのニーズを満たすために信頼できる友人や趣味が近い知人によるTwitterのRT(リツイート)やFacebookの「いいね!」といったアクションをフィルターとして、その中で共感したものだけを「自分に有益である情報」として選別するという考え方です。
■ASICA(アシカ):BtoBビジネスの購買行動モデル
ASICAとは、「Assignment(課題)」、「Solution(解決)」、「Inspection(検証)」、「Consent(承認)」、「Action(行動)」の頭文字を取ったものです。
AIDMA、AISAS、SIPSはBtoCビジネスおける購買行動モデルですが、ASICAはBtoBビジネスにおける
購買行動モデルとして、日本BtoB広告協会の副会長であり堀場製作所に勤務する河内英治氏が提唱したモデルです。
BtoBビジネスの購買行動における大きな特徴は「合理的な意思決定」がされることです。
BtoCビジネスの場合、顧客は「個人」であるため購買を決める裁量は顧客自身にあります。多くの場合「感情的な意思決定」がされるでしょう。そのため、AIDMA、AISAS、SIPSでは、最初の段階で感情に訴える「注意」や「共感」が必要なのです。
一方で、BtoBビジネスの場合、顧客は「個人」ではなく「組織人」として意思決定を行います。
そして、その組織人が複数関わり、最終的な購買を意思決定するのです。そのプロセスでは「この商品が欲しい!」という感情が重視されることはなく、「必要性」、「経済合理性」、「妥当性」などの観点が重視されます。
そのため、プロセスの最初では顧客の「課題」を発掘して購買の必要性と合わせて「解決策」として自社の製品をアピールすることが重要となります。
その後、検証や承認の段階でも、他社製品との機能比較や市場シェアなどの新たな情報が必要となってくるのです。
■4つの「不」:BtoBビジネスでの顧客心理モデル
4つの「不」とは、「不感」、「不知」、「不信」、「不急」のことです。
これは、BtoBビジネスの購買プロセスにおいて壁となるものを表したモデルで、株式会社ネクスウェイが提唱しているものです。
4つの不とは、それぞれ以下のような顧客の心理状態を表しています。
不感⇒課題が腹落ちしていない
不知⇒課題は感じているが、解決手段を知らない
不信⇒解決手段は認知しているが、その有効性を信じていない
不急⇒手段の有効性は認識しているが、相対的に解決すべき優先度が上がらない
ASICAで言うならば、「課題」と「解決」の段階での顧客の心理状態といえます。
上記ではBtoBビジネスでは購買において「合理的な意思決定」がされると書きました。
購買プロセス全体ではそのとおりなのですが、実は最初段階では「個人」の感情が影響を与えている面もあります。
BtoBマーケティングの現場でその事を感じることがよくあります。
購買プロセスの最初の段階で「個人」が課題意識を持たないかぎり、その先には続いていかないということです。
そして、その課題意識を形成するには、「個人」の感情に働きかける必要があるという考え方です。
フレームワークに正解はないが、有効活用はできる
こういったフレームワーク的な話になると「○○の場合は当てはまらない!」と批判的な反応をする人を見かけます。
その指摘は正しく「これが絶対!」という購買行動モデルはないでしょう。
しかし、正しくないからと言って切り捨ててしまってはもったいないです。
購買行動モデルに正解を求めるのでなく、自身の考え方を整理したり、他社との相互理解を深めるためのツールとして有効活用していく姿勢がマーケッターとしての能力向上につながっていくのだと思います。
<参考にした情報>
SIPS(電通ホームページ)
第1回 「見込み客」が、「こっちを振り向いてくれる」瞬間を見極める(ITmediaマーケティング)
河内英司のBtoBコミュニケーション考
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